条文
第1条
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
解説
〖日本国憲法1条解説〗
日本国憲法第1条は国民主権と象徴天皇制を端的に表している条文です。日本国憲法の三大原則は、いうまでもなく、
①国民主権、②基本的人権の尊重、③平和主義ですが、国民主権については、これを明示する条文はなく、この条文と、日本国憲法前文が国民主権について表しているとされています。
日本国の元首(とはいえ象徴ですが)が「主権の存する日本国民の総意に基づく。」とされており、あくまで国民の総意により天皇制度が維持されていることになる、という点が戦前の天皇主権ではなく、国民主権であることを表しています。
また、あくまで天皇は「象徴」であることもこの条文に明記されています。つまり、天皇は何らの実権(特に政治的権限)も持たない、ということです。そのため、天皇の行為は全て(とはいえ、もちろん私的行為は別です。)国事行為とされ、憲法3条に基づき、全て内閣の助言と承認を必要とするとされており、天皇の行為の責任は内閣が負う、という立て付けになっています。
これは第二次世界大戦の教訓を生かした規定と言えます。戦前の大日本帝国憲法は、天皇主権の下、天皇は現人神とされ、絶対的な権力者でした。この天皇主権と軍国主義の下、軍部が暴走した際に、歯止めを利かせる仕組みが存在しなかったことから、「天皇のため」という名目で第二次世界大戦に突き進んでしまったことの反省から定義されているものです。GHQに天皇制の維持を認めさせるためにも必要だった条文なのでしょう。
また、特に戦後直後の日本国民にとって天皇は心のよりどころであったため、廃止すべきではない、との考えから「象徴」として、その実権は失わせても、存在は維持したものと考えられます。
昭和天皇が崩御される直前、当時の千葉県知事が昭和天皇の快癒を祈念して、記帳所を公費で設置したことについて、千葉県民である原告が地方自治法第242条の2第1項第4号に基づいて、千葉県に代位して昭和天皇の相続人である明仁に対して損害賠償請求の住民訴訟を提起したという事件があります(最判平成元年11月20日)。
この訴訟において、最高裁は「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることに鑑み、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である。」と判示しました。つまり、天皇が原告となって訴訟を起こしたり、天皇を被告とする訴訟は提起できない、と判示しています。
人であれば、本来当然有するはずの民事裁判権を、日本国民の「象徴」であるがゆえに、有していない、というのは面白い判断ではあります。ただ、極端な話ですが、天皇が交通事故を起こしたような場合であれば、完全な私的行為ですからさすがに損害賠償ができないとおかしい、という話になるのではないか、という議論は残されているところです。中々実務で登場する条文ではありませんが、上記のとおり、憲法前文と共に、日本国憲法の根幹をなす条文、ということができるでしょう。