条文
第145条(時効の援用)
第145条(時効の援用) 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
解説
〖民法145条解説〗
この条文は、時効の援用について定めている条文です。時効という言葉は皆さんも聞いたことがあると思います。よくニュースで話題になるのは、刑事事件の公訴時効であり、犯罪から●年が過ぎると時効が成立して、公訴提起ができなくなる(=犯罪者が罪に問われなくなる)というものですので、この条文とは制度が違います。なお、公訴時効については、本条に定められている事項の援用といった手続きは必要なく、期間が経過すれば自動的に時効が成立することになります(一部公訴時効が撤廃されている犯罪類型もあります)。
この条文で想定されているのは、民事上の時効です。民事上は取得時効と消滅時効の2種類の時効が規定されています。取得時効というのは、民法162条に規定されている制度で簡単にいうと、他人の物を一定期間占有し続けることで、その物の所有権を取得できる制度を意味します。消滅時効は民法166条に規定されている制度で、一定期間、権利を行使しないと、その権利が法律上消えてしまう制度を意味します。
これらの時効制度は、本来の権利者が長期間権利を行使しないことによる、取引の安全を図るために設けられています。よく、時効制度の趣旨として「権利の上に眠る者は保護しない」と説明されることがありますが、これは本来の権利者と表見的な権利者(外観的に権利者に見える人)がいる場合、一定期間を経過したあとでも、それまで全く無関心だった本来の権利者による権利行使を認めると、表見的な権利者を前提に組み立てられた契約関係に混乱をきたすのでその外観を保護しよう、というものです。
ただし、刑事上の公訴時効と異なり、この民法145条に基づいて「援用」が必要となります。この条文が定める「援用」とは、時効の利益を受けるために当事者が行う意思表示のことをいい、この条文を根拠に、援用がなければ時効の効果は生じず、裁判所も職権で適用できない、ということになります。簡単にいうと、162条や166条が定める時効期間を経過しても、この条文に基づく援用を行わない限り、消滅時効により権利は消滅しないし、取得時効により所有権の取得はできない、ということです。なお、この条文のただし書により、権利の消滅について単なる債務者だけではなく、「正当な利益を有する者」、具体的には保証人や物上保証人、第三取得者も消滅時効の援用が認められています。
実務的には時効の援用については、民法上具体的な方法は定められていませんが、エビデンスを残す形で行われるのが一般的であり、内容証明郵便や、既に訴訟に至っている場合には、準備書面等で援用の意思表示を行うことになります。
民事上の時効が成立していると思っても、この「援用」を行わないとその効果が得られないことは知っていて損はないでしょう。